〈家づくりの本25〉What is a good house?「いい家って何ですか?」










 

価値観が多様化している現代社会。「首都圏と地方」「子育て世代と高齢者」「施主と工務店」またはその時のライフステージなどなど、それぞれの視点によって「いい家」に対する考え方が変わるのが家づくりのむずかしいところ。そこでさまざまな分野の方に「いい家とは?」というテーマでインタビュー。第2回目となる今回は4人の方に協力いただき応えてもらいました。紡ぎ出す言葉から、家づくりのヒントを見つけてもらえたら幸いです。

interview

〈はじめての資産運用おたすけ隊〉
馬込 八寛さん

〈日々研究所株式会社〉
森 一峻さん

〈斜面地・空き家活用団体「つくる」〉
岩本 諭さん

〈kuriya〉
小川 灯さん

大村を拠点にIFA(独立系金融アドバイザー)として将来のお金の問題を解消するサポートを行っている。現在は新NISAを正しく活用するなど、資産運用のサポートがメイン。万が一の時の資産の保障など保険の買い方などもアドバイス。10年ほど前に自身の家づくりも行った。

10年20年30年先を見据えた長い目が
その人の人生にフィットした「いい家」を生みだす――

馬込さんははじめての資産運用おたすけ隊とある通り、大村を拠点にお金にまつわるプロとして新NISAを活用した資産形成のセミナーなど開催したり、個人の相談を受けたりとIFA(独立系金融アドバイザー)として尽力している。

家づくりをした自身の経験や仕事を通じて馬込さんが思う「いい家」とは、その時だけの場当たり的なものではなく、未来を見据え、自身の人生設計までも考慮したものだという。なぜならハード面で言うと、購入した時は、子ども部屋が必要だったが、子供が巣立ったあと使わなくなってしまったり、今は金利が低い時代なので、購入時には有利だが、老後の生活などその後の生活で、支払いに無理が生じてしまったりして、せっかく建てた家を最悪売却してしまうなんて事態になりかねないからだ。

「その時のライフステージで、いい家の価値観が変わり、素人だと判断が難しい面もあるので、アフターフォローのある長い付き合いをしてくれる工務店だったり家づくりのプロをみつけることも重要かもしれません」と話す馬込さん。いい家づくりとは家自体の物質的なことだけではなく自分自身のライフスタイルとのバランスにフィットする設計をプロと一緒に、冷静に作り上げていくことなのかもしれない。

 

東彼杵町出身在住。地元東彼杵町へUターンし、現在は東彼杵町を中心に長崎県の地域のコーディネーターとして地域住民と連携した地域・文化づくりに取り組んでいる。昨今は人事・人材育成・能力開発などをサポートする日々研究所株式会社を起業し代表を務める。

自分がどう生きるかを明確にすることで
「いい家」の輪郭が見えてくる

東彼杵の千綿にある〈ソリッソリッソ〉を拠点として、古民家をリノベーションした店舗や拠点づくりのサポート。千綿エリアに魅力を感じた移住者の起業を手伝い、これまでに数えきれないほどの事業創出に尽力してきた森さん。昨今では企業の人事・人材育成・能力開発や広報活動をサポートする日々研究所株式会社を起ち上げ、その活動は実に多岐に渡るが、長年ローカルの現場で地元を盛り立ててきた森さんが思う地域の暮らしの魅力とはなんなのか?森さんいわく、地元の東彼杵の話で言えば、都心部に比べるとまちにはなにもないが「新しいことを始めたい」「面白いことをしたい」となにか夢中になっている人が集まるようになってきた印象があり、そんな人が来たときにはそれを受け入れ応援してくれるあたたかな空気があるのだという。なにかチャレンジをしたいと思っている人にとって心地の良い暮らしが東彼杵にはあるというわけだ。

また「どこかに家を建てるということは、自分のしたいことをわかってないといけないような気がします」と話す森さん。確かに「どこに住み、どんな働き方をし、どんなコミュニティで生きるのか?」などトータル的に自分の理想の暮らしを明確にしておかないと、いい家や暮らしを手に入れることは難しそうだ。「人によって価値観が違うのでいい家というのを、はっきりと言うのは難しいですが、もしかしたら家も二拠点だったり、ミニマムだったりいろんな家があっていいと思います」と自身の見解を話してくれた。

大分県出身。長崎での学生時代に研究した「坂のまちの研究」をきっかけに地域活動に深くかかわり発信するように。南山手で空き家を再生した「つくる邸」を拠点に、斜面地の活性化に取り組む、団体「つくる」を運営し、人口減少などの長崎県が抱える問題解決に取り組む。

密接な人と人の繋がりのある
「坂のまち」でのハートフルな暮らし

長崎の大学で都市景観の研究を始めたことをきっかけに、斜面地・空き家活用団体「つくる」を起ち上げた岩本さん。空き家を再生し「つくる邸」と名付けたオープンな住宅を拠点に、情報発信やイベントを開催する彼を通して、ずばり長崎の斜面地の魅力を探るべく取材を行った。

岩本さんが住むエリアはグラバー園からも近い南山手。普段の生活や「つくる」の活動を通して岩本さんが思う「坂のまちの魅力」とは、斜面地特有の住宅の密集率の高さと比例するように、人の距離感もそれだけ密接だということだ。「人がいなくなっているという危機感を持っている方が多いのもあってか、地域活動に積極的に参加している方が多い印象です。家の扉を閉めたら、そこは独立したスペースという考えもあると思うのですが、僕自身も住宅というのは地域の一部で、まちと繋がっているという感覚を持っていて。それが大切だと感じています」と話す岩本さん。もともと岩本さん自身も3.11の震災の際に参加したボランティアの経験をきっかけに、人の絆の大切さを感じるようになり、今の「つくる」の活動に繋がっていったのだという。

またもう一つの良いところとしては景色が良いということ。確かに取材を行った「つくる邸」からの眺めも長崎港を一望できる情景が美しかった。
「坂が多くてきつかったりと、嫌な面ももちろんあると思うのですが、実際に住んでみたらまさに「住めば都」で気にならなくなります(笑)地域の密でハートフルなコミュニティの良さを、いろんな方に知ってほしいですね」と岩本さん。人と人との関りの深いハートフルな暮らしこそが地域で家を建て、暮らし、生きるということの魅力なのかもしれないと感じた。

 

デザインと機能性を備えた台所道具や、長く愛される暮らしの道具を販売している〈kuriya〉の建築部門に携わる。kuriyaの考え方を体現した、住まい手に寄り添った自由設計・注文住宅〈kuriyaの家〉を長与エリアを中心に提案している

時の流れを愉しめるような
「余白」のある住宅

台所を中心としたさまざまな暮らしの道具を販売し、日々を豊かにするエッセンスを提案する〈kuriya〉。暮らす人に寄り添った注文住宅〈kuriyaの家〉に携わってきた小川さんに、今回の企画のテーマを投げてご意見をお伺いした。

〈kuriyaの家〉は、家族が集う台所を中心とした自由設計の注文住宅。「デザインはなるべくシンプルに、肌ざわりの良い空間づくりを心がけています。また環境に負荷をかけずに快適な生活を送るための設備や構造にも配慮しています。長く続いていく暮らしの中で愛着が増してゆくような家づくりを目指しています」と話す小川さん。またいわく、家を買う、というより、家を一緒につくる、という感覚を大切にしたい。「住まわれる方の暮らしの考え方、価値観、趣味嗜好、将来のこと等を共有させていただいた上で一緒に考え、ご家族の理想の住まい方を実現するお手伝いができれば。」生活動線、家事の時短、収納方法、地球環境への配慮など生活の質の向上のために選ぶ要素は家族によって違う。そのバランスを整え、住まい手と一緒に新たな豊かさを探してゆく。

今はSNSなどで情報がたくさんあり選択肢も多い中で、家族の成長によってライフスタイルが変わったり、時代の変化で価値観が変わったり。なにをもって豊かな暮らしひいてはいい家というのを定義するのかはどうしても難しい問題だが、ハード面でもソフト面でも柔軟な「余白」を持った、長く愛され続ける家づくりを目指したい。

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