












価値観が多様化している現代社会。「首都圏と地方」「子育て世代と高齢者」「施主と工務店」またはその時のライフステージなどなど、それぞれの視点によって「いい家」に対する考え方が変わるのが家づくりのむずかしいところ。そこでさまざまな分野の方に「いい家とは?」というテーマでインタビュー。第2回目となる今回は4人の方に協力いただき応えてもらいました。紡ぎ出す言葉から、家づくりのヒントを見つけてもらえたら幸いです。
interview
〈U-30からはじめる長崎のまちづくり会議前座長〉
森 きょうへいさん
〈有限会社古場一男材木店〉
取締役 古場 信成さん
〈里山建築〉
取締役専務 里山 賢太さん


長崎市出身。大学進学で県外へ進学後、商店街振興を行う企業に勤務し、全国の商店街を巡る。長崎にUターン後は「U30まちづくり会議」をはじめとしたソーシャルアクションを主催。地域の人・文化・まちの魅力を次世代へつなぐ活動に取り組んでいる。

「いい家」は余白にある。
家族の変化と長崎の街を受け入れる住まい
首都圏において「マイホーム」は、資産価値や利便性で語られることが久しい。しかし、ここ長崎において家を建てるという意味は、もっと豊かで、もっと人間らしい営みの中にあるのではないか。その答えを探るべく、長崎のまちづくりに情熱を注ぐ一人の男性の元を訪ねた。
「一番いいと思っているのは『余白のある家』です」。「U-30からはじめる長崎のまちづくり会議」前座長、森きょうへいさんは開口一番、そう断言した。
彼は大学時代、空き店舗を活用したアートプロジェクトをきっかけに街への関心を深め、現在は都市デザインの観点から表現が生まれる街の環境整備に奔走している。そんな彼が語る「余白」とは、単に部屋が広いということではない。精神的なゆとり、そして「誰かが関われる隙間」のことだ。
実際に森さんが現在暮らしているのは、元商店を無理やりリノベーションしたという物件だ。広めの階段に高すぎる天井、そして屋上。一見無駄に思えるその「余白」に本を積み上げたり、子どもの遊び場にしたり、ベランダでテントを張ったりと、余白の中に自分軸で暮らしを彩っている。
また森さんは「住み方を決めつけないこと」こそが重要だと説く。子どもは成長し、自身の価値観も変化する。そして家も変化するような柔軟性が必要なのだと。将来を想像し準備できる楽しさ。それこそが、家を長く愛するための秘訣なのだろう。
また敷地境界線の内側だけで考えを完結しないことも、森さんの視点の軽やかさや広大さの特徴だ。彼はかつて東京で、商店街の空き店舗に住み、一階をギャラリーとして開放していた経験を持つ。そこでは地域の人々との交流が生まれ、予想もしない出会いやイベントが日常的に発生したという。その経験から導き出されたのが、「街と共に変化し、呼吸するような家」という理想像だ。
家にすべてを求めず、家の周りの環境をうまく取り込む。隣に公園があるなら、その木漏れ日や子どもたちの声を借景にする。近くに川があるなら、せせらぎをBGMにする。家の中だけに閉じこもるのではなく、近所の公園や路地までを含めて「自分の庭」が広がっていく感覚を持つこと。そうすれば、暮らしは豊かで楽しいものになる。
こうした観点に立った上で、改めて長崎の町の暮らしと「いい家」について考えてみよう。長崎で家を建てるなら、避けて通れないのが「坂」や「斜面地」の問題だ。しかし森さんは、この長崎特有の地形を個性的に捉えている。圧倒的な景観や歴史という、課題を補って余りある魅力が存在するからだ。利便性だけを求めるなら、平地のマンションが良いかもしれない。だが、「海を見ながら暮らしたい」「静かに暮らしたい」という、自分の内なる声に耳を傾けたとき、斜面地は唯一無二の選択肢となる。地域の祭り、馴染みの店、爆竹の音、海の匂い。家の記憶は街の記憶と絡み合い、やがてかけがえのない「故郷」の風景となっていく。
「完璧なものを求めるのは難しい。課題を克服することを楽しんだり、その土地の物語に愛着を持ったりすることで、『いい暮らし』に近づける」。森さんのこの言葉は、土地選びに悩む私たちへの力強いエールだろう。
これから家を建てるなら、まずは街へ出て、実際に歩いてみてほしい。そこでどんな暮らしをしたいのか、どんな風景と共に生きていきたいのかをイメージすること。それこそが、あなたと家族にとっての「世界に一つだけのいい家」をつくる第一歩となるはずだ。

有限会社古場一男材木店の3代目として佐世保市に生まれる。大手ハウスメーカーで約20年、設計・営業・監督を経験。現在は材木業の傍ら建築士事務所も営み、地元の木の温もりを融合させた家づくりを提案している。

元ハウスメーカーの材木屋建築士が辿り着いた
「愛着」という答え
長崎県佐世保市に、住宅業界の「最前線」と家づくりの「原点」その両方を知り尽くした人がいる。〈古場一男木材〉の古場さんだ。
彼は材木屋の家に生まれながら、新卒で大手ハウスメーカーの世界へと飛び込んだ。関西の本部勤務を含め、約20年にわたり設計、営業、現場監督という主要職種をすべて経験。そこは仕様が明確で品質管理が行き届いた、多くの人にとって「いい家」の定義が分かりやすい、安心できる現代の家づくりの最前線だった。しかしその一方で、コストや品質の均質化を優先するため、その土地の木材を使う「地産地消」を取り入れることは難しいという現実も、彼はその目で見てきた。
7年前に家業を継ぐために佐世保へ戻った古場さんは現在、ハウスメーカーで培った機能性や利便性の視点と、材木屋として改めて向き合った素材の暖かみの両方を大切に、家づくりと向き合っている。また材木屋として働きながら、二級建築士の資格を持ち、自身の建築士事務所も構えている。しかし建築士としての積極的な営業活動は行っていない。あくまで「困ったときの相談窓口」として、水道屋や電気屋など、現場を知る職人たちからの紹介で舞い込む相談に淡々と向き合う。
そんな古場さんが考える「いい家」とは何か。
ハウスメーカー時代、古場さんが重視していたのは「現実的な視点で住まいを検討すること」だった。まずは総予算を正確に把握し、ローンは組めるか、子どもの教育費はどうなるかなど、ライフサイクルコストまで見据えた「無理のない資金計画」で家が建てられるか、という点を重視していた。予算やライフスタイルによっては、戸建てにこだわらず「マンションを買うべきだ」と正直に伝えることさえあったという。お客様の生活の破綻を防ぐこと。それが当時の彼にとっての「誠実さ」であり最適解だった。
もちろん、この視点は今でも重要だ。しかし、材木屋という原点に立ち返り、多くの家を見つめてきた今の彼がたどり着いた「最終的な答え」は、少し形を変えている。
材木屋の視点から言えば、その土地の木を取り入れることが望ましいと古場さんは語る。いわゆる「地産地消」だ。長崎なら、同じ気候風土の中で育った長崎県産や九州産の木材の方が、日本の環境に馴染みやすく、耐久性の面でも理にかなっているのだという。
一方、長崎は決して木材の一大産地ではないため、地元の木で家を建てることは難しい状況でもある。そのため古場さんは佐世保木材協同組合の理事として、長崎県産の木材を商品化することで、将来的に長崎県産の木材で家を建てられるようなラインを生み出したいと考えているという。
こうした中で、彼が今考える「いい家」の最終的な定義がある。それは、「愛着の湧く家」だ。
性能、デザイン、新築か中古かなど、選択肢は無数にある。しかし、どんなに高性能な家でも、住む人が家や暮らしに無関心であれば、それはおそらく「いい家」ではない。一方で、例えば無垢材を使用した家など多少手入れが大変な場合でも、家族で床を磨きワックスをかけ、傷さえも思い出となるなら、その家は唯一無二の居場所になる。
家は完成品ではない。暮らしながら手を加え、育てていくものだ。そうして育まれた「愛着」こそが、最終的にその家を「良い家」にするのだと古場さんは語る。
今後は組合を、誰もが気軽に「長崎の木で建てたい」と相談できるような、一般のお客様にも開かれた場所にしていきたいという古場さん。もし心から安らげる住まいを探しているのなら、一度足を運んでみてほしい。そこには、流行り廃りだけではない、長崎の地で家族の時間を刻むための、本物の知恵があるはずだ。

1704年に創業の、江戸時代から続く〈里山建築〉を営む里山家の次男として生まれる。建築系の学校を卒業後、長崎の住宅メーカーに勤務。現在は〈里山建築〉で建築のディレクターとして活躍する

誰も見てなくてもいい仕事を追求する
つくり手のこだわりが
住まいに美しさをつくりだす――
「いい家」のヒントを探るため、波佐見町で400年以上大工の家業を続けてきた〈里山建築〉の専務・里山さんに話を聞いた。江戸中期から続く職人の家に生まれ、大工仕事が常に身近にあったという里山さんは現在、住宅やカフェなど〝人が集う場所〟の建築を県内で幅広く手がけている。
里山さんが語るのは、「最低限の丈夫さや機能性は、人の命を守る家として当然。その先にあるものこそが〝いい家〟です」という視点だ。その本質に近い言葉として、柳宗悦が提唱した「用の美」を挙げる。日用品のように実用に徹する中に宿る、美しさのことだ。「棚一つでも、ただ組むのではなく、留め加工を施すことで生まれる美しさがある。職人が誰に見られなくても良い仕事を積み重ねることで、暮らしの感動は生まれる」と語る。
技術を磨き続け、その人のための一点ものの家をつくる。「今だけ良いのではなく、ずっと良い家を目指したい」。そのストイックな姿勢こそ、〝いい家〟を形づくる源なのだと感じられた。

若者や子育て世代の転出超過が続いている長崎市が、市外への流失を抑制する為住宅供給の観点から若い世代に選ばれるまちにすることを目指した「住みよかプロジェクト」の協力認定店として地域に尽力している。

家に暮らし方を合わせるのではなく、
自分らしい暮らし方に家を合わせる
リノベ不動産は、「日本住を、愉快に。」をコンセプトに全国200拠点を超える日本最大級の中古リノベーションブランド。長崎大橋店は、転出超過の問題を抱える長崎で若い世代の不安を解決するべく、予算を抑え好立地に住める可能性が高い『中古買ってリノベーション』という住宅購入手法で、長崎で頑張る若い世代を応援している。「皆さんがそれぞれ想い描く暮らしを話てほしい」と鶴田さん。長崎で子育てを経験した夫婦が一人一人の理想の暮らしに寄り添いながらサポートをしている。
「不動産としてのいい家とは、資産価値の高い家と一般的に考えられています。」と鶴田さん。
ただ一方で、自分らしい暮らしを楽しみたいユーザー視点で言うと不動産としての価値は重要でなくなるかもしれません。」とも語る。家を単なる資産価値と考えるのではなく、「海辺の家に住みたい」「庭キャンプがしたい」「夫婦一緒に料理する大きなキッチンが欲しい」「愛猫が自由に行き来できる空間」など、シンプルな理由でもユーザーが想い描く愉快な暮らしを満たす家、自分だけのいい家の価値を見つけることが重要だ。
家づくりにおいて今、リノベーションに注目が集まっているのもライフスタイルに合わせた住宅購入手法が可能だからと言える。いい家と愉快な暮らしを手に入れるにあたって選択肢が多いことに越したことはない。
色んな角度から自分だけのいい家の価値を見つけて欲しい。
もっと自由に、自分らしく。

大分県出身。長崎での学生時代に研究した「坂のまちの研究」をきっかけに地域活動に深くかかわり発信するように。南山手で空き家を再生した「つくる邸」を拠点に、斜面地の活性化に取り組む、団体「つくる」を運営し、人口減少などの長崎県が抱える問題解決に取り組む。

密接な人と人の繋がりのある
「坂のまち」でのハートフルな暮らし
長崎で都市景観を研究したことをきっかけに、斜面地・空き家活用団体「つくる」を立ち上げた岩本さん。南山手の空き家を再生した「つくる邸」を拠点に活動しながら、〝いい家とは何か〟を地域とともに考えている。
岩本さんが感じる斜面地の魅力は、住宅が密集する環境だからこそ生まれる〝人の距離の近さ〟。人口減への危機感もあり、住民は地域活動に積極的で、自然と助け合いが生まれているという。「家は独立した箱ではなく、地域とつながる場所。それがいい家の条件だと思う」と語る背景には、3.11のボランティア経験で得た〝人の絆の大切さ〟がある。
さらに、斜面地ならではの眺望の良さも魅力と語る岩本さん。「つくる邸」から望む長崎港の景色も格別だ。「坂は大変ですが、住めば都。温かなコミュニティこそ暮らしの価値」と岩本さん。
〝いい家〟とは、地域と人をつなぎ、心が通い合う暮らしを育む場所なのかもしれない。

東京の設計事務所で経験を積んだのち、地元・島原で事務所を構え公共施設から住宅までさまざまな建築を手がける建築設計士。2025年10月より長崎大学工学部の准教授に着任し、教育面でも建築に携わっている。

その土地と建てる人とフィットする
家づくりの価値があるはず――
島原を拠点に公共施設や住宅を手掛ける建築設計士・佐々木さん。東京で経験を積んだのち、土地の可能性が広く残る地方だからこそ〝よりよい建築がつくれる〟と感じ、島原へUターンしたという。
近年はSNSのビジュアルから家づくりを相談されることも多いが、「本当に大切なのは、土地の歴史や風土、風向きといった環境を踏まえ、暮らしに合う形を考えること」と語る。傾斜地が多い長崎でも、その条件を活かした設計を提案し、LDKという既成の枠に縛られない〝家族のスタイルに合う家〟を施主とともに探っている。
その理念を体現するのが、斜面地を生かした立体構造の「あたご保育園」。子どもたちがのびのびと過ごす姿からも、土地と人に寄り添う〝多様な家のかたち〟が見えてくる。
長崎には、佐々木さんのように地域に根ざした視点で「いい家」をつくる設計士がいる。その存在が、これからの街並みをより豊かにしていくはずだ。

